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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)11467号 判決

原告(反訴被告)

坂本誠之助

右訴訟代理人弁護士

伊藤末治郎

被告(反訴原告)

ユニオントレード株式会社

右代表者代表取締役

佐藤一郎

外四名

反訴原告

小川龍司

右六名訴訟代理人弁護士

朝倉正幸

被告(反訴原告)

東北産商有限会社

右代表者代表取締役

田中宣昭

右訴訟代理人弁護士

藤田政義

主文

(本訴について)

一  原告(反訴被告)と被告(反訴原告)ジャパンコンサルティングトラスト株式会社との間には別紙物件目録(一)記載の土地建物について賃貸借契約が存在しないことを確認する。

二  被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同佐藤一郎、同風間和雄は、原告(反訴被告)に対し、連帯して金二〇万円及びこれに対する昭和六一年四月六日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同佐藤一郎、同風間和雄は、原告(反訴被告)に対し、連帯して金二〇〇万円及びこれに対する昭和六一年七月一五日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同佐藤一郎は、原告(反訴被告)に対し、連帯して金九万円及びこれに対する昭和六一年七月三〇日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同佐藤一郎は、原告(反訴被告)に対し、連帯して金二二万円及びこれに対する昭和六一年七月一五日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

六  被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同佐藤一郎は、原告(反訴被告)に対し、連帯して金一八万八二〇〇円及びこれに対する昭和六一年七月一六日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

七  被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同佐藤一郎、同風間和雄は、原告(反訴被告)に対し、連帯して金一〇八万一三六四円及びこれに対する昭和六三年三月一日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

八  被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同佐藤一郎、同風間和雄、同張沢勲は、原告(反訴被告)に対し、連帯して金三〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一二月一日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

九  被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同風間和雄、同東北産商有限会社は、原告(反訴被告)に対し、連帯して昭和六一年四月一五日から昭和六三年一月二七日まで一か月金三三〇〇円の割合による金員を支払え。

一〇  原告(反訴被告)の被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同佐藤一郎に対する請求の趣旨第四項の請求の全部、並びに原告(反訴被告)の被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同佐藤一郎、同風間和雄に対する請求の趣旨第三項の請求中主文第三項部分を除くその余の請求、同じく請求の趣旨第八項の請求中主文第七項部分を除くその余の請求、及び被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同佐藤一郎、同風間和雄、同張沢勲に対する請求の趣旨第九項の請求中主文第八項部分を除くその余の請求をいずれも棄却する。

(反訴について)

一一 被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同東北産商有限会社、同佐藤一郎、同風間和雄、同張沢勲及び反訴原告小川龍司の原告(反訴被告)に対する反訴請求を棄却する。

(本訴・反訴共通)

一二 訴訟費用は本訴、反訴を通じて一〇分し、その三を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社、同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社、同東北産商有限会社、同佐藤一郎、同風間和雄、同張沢勲及び反訴原告小川龍司の負担とする。

一三 この判決の第二項ないし第九項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

(本訴)

一主文第一項と同旨

二主文第二項と同旨

三被告(反訴原告)ユニオントレード株式会社(以下「被告ユニオン」という。)同ジャパンコンサルティングトラスト株式会社(以下「被告ジャパン」という。)同佐藤一郎(以下「被告佐藤」という。)同風間和雄(以下「風間」という。)は、原告(反訴被告)(以下「原告」という。)に対し、連帯して金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六一年七月一五日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

四被告ユニオン、同ジャパン、同佐藤は、原告に対し、連帯して金一二一万円及びこれに対する昭和六一年七月一五日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

五主文第四項と同旨

六主文第五項と同旨

七主文第六項と同旨

八被告ユニオン、同ジャパン、同佐藤、同風間は、原告に対し、連帯して金三四八万九六二七円及びこれに対する昭和六三年三月一日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

九被告ユニオン、同ジャパン、同佐藤、同風間、被告(反訴原告)張沢勲(以下「被告張沢」という。)は、原告に対し、連帯して金三〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一二月一日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

一〇主文第九項と同旨

(反訴)

一一原告は、被告ユニオン、同ジャパン、同東北産商及び同佐藤に対し各金一〇〇万円、被告風間、同張沢及び反訴原告小川龍司(以下「反訴原告小川」という。)に対し各金五〇万円、並びに右各金員に対する昭和六一年九月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一原告は、本訴において、被告ジャパンから三〇〇万円を借り入れ、右債務を担保するため、原告所有の別紙物件目録(一)記載土地建物(以下「本件土地建物」)に使用権限のない賃借権を設定し、また、その弁済のため賃料請求債権を譲渡し、これにより原告の債務は弁済されたのに、被告らが、書類を偽造し、被告ジャパンの使用権限付きの賃借権を主張して本件土地建物を占拠し、原告及びその家族に脅迫等を加えて原告の家庭を崩壊に導き、庭木や動産類を勝手に処分するなどしたと主張して、(1)被告ジャパンに対し、本件土地建物について同被告が賃借権を有しないことの確認を求めたほか、被告らの共同不法行為を理由として、(2)三〇〇万円借入時に被告風間に預けた二〇万円、(3)庭園の破壊による一〇〇〇万円、(4)動産類の処分による一二一万円、(5)別紙物件目録(二)記載の建物の破損による九万円、(6)本件土地にあった駐車場の撤去による二二万円、(7)原告が被告らによる危害を避けるため外泊を余儀なくされたことによる宿泊代一八万八〇〇〇円、(8)被告ジャパンが本件建物の賃借人から徴収し、本件貸金三〇〇万円に充当した後の過徴収分三四八万九六二七円、(9)書証を偽造し、過大な債権を主張し、使用権限があると強弁して暴行脅迫等をもって原告らを放逐し、庭園の破壊、駐車場の撤去、動産類の処分等をしたことによる慰謝料一〇〇〇万円、(10)本件土地の一部を不法に被告東北産商に賃貸したことにより毎月三三〇〇円の賃料相当の損害を被ったとして、その賠償を求めた。

これに対して、被告ら及び反訴原告小川は、反訴において、原告が、被告らに対し仮処分を申請し、本訴を提起し、本件建物の賃借人らに本訴において主張しているような虚偽の事実を伝え、あるいは公表して被告らの名誉を毀損したとして、原告に対し、被告ユニオン、同ジャパン、同東北産商及び同佐藤は各金一〇〇万円、被告風間、同張沢及び反訴原告小川は各金五〇万円の賠償を求めた。

二争いのない事実

1  本件土地建物は、原告がもと所有していたものである。

2  右建物のうち、別紙物件目録(二)記載の建物は原告が同人夫婦、長男夫婦とその子供の住居として使用していたものである。

別紙物件目録(三)記載の店舗は空き店舗となっていた。

別紙物件目録(四)記載の店舗は次のとおり第三者に賃貸していた。

一号店舗

賃借人 牛越富子

賃料 月額六万三〇〇〇円

保証金 八〇万円

期間 昭和六一年三月一日から昭和六六年(平成三年)二月二八日まで

二号店舗

賃借人 芭蕉正廣

賃料 月額五万円

保証金 なし

期間 昭和五九年九月一日から昭和六四年(平成元年)八月三一日まで

四号店舗

賃借人 天沼通雄

賃料 月額六万五〇〇〇円

保証金 五〇万円

期間 昭和六〇年一二月二三日から昭和六三年一二月二二日まで

五号店舗

賃借人 株式会社産経新聞社

賃料 月額六万円

保証金 六〇万円

期間 昭和五八年八月一日から昭和六三年七月三一二八(ママ)

3  被告ユニオンは金銭の貸与等を目的とする資本金一億円の会社であり、被告佐藤は同社の代表取締役であり、被告風間、同張沢は同社の従業員である。

被告ジャパンは資本金三〇〇万円の会社であるが、貸金業の登録をしておらず、土地建物取引業者としての免許を受けていない。

4  原告は、株式会社東京都民銀行池袋支店(以下「都民銀行」という。)から別紙物件目録(一)記載の土地建物について競売の申立てをされていた。

5  原告は、被告ユニオンに借入の申し入れをしたところ、これを担当した被告風間は右銀行と交渉して四〇〇万円で競売の取り下げの合意を得、その支払日を昭和六一年四月五日と定めた。

そして、被告風間は、銀行と再度値下げの交渉をして三八〇万円で競売を取り下げるとの合意を得、その場で都民銀行に同額を支払った。

6  被告ジャパンは、原告との間に昭和六一年四月四日本件土地建物について賃貸借契約を締結したと主張して、その契約書などの原本を所有し、本件土地建物を占有し、別紙物件目録(四)記載の店舗の賃借人のうち牛越、天沼から家賃の支払いを受けており、昭和六一年六月一三日、家田誠之(以下「家田」という。)に対し、別紙物件目録(三)記載の店舗を賃料月額六万七五〇〇円で賃貸した。

7  被告ジャパンは本件土地建物について別紙仮登記目録のとおり昭和六一年四月九日付けの賃借権仮登記手続をした。

8  原告は、昭和六一年六月二四日、被告ユニオン、同ジャパンを債務者として本件土地建物の明渡の仮処分を申請し(同年七月八日その決定を得て、同年七月一四日その執行を終えた。)、同年六月二八日、被告ジャパンに対し本件土地建物の仮登記上の権利の処分禁止の仮処分を申請し(同年七月一日その旨の決定を得た。)、さらに、被告らを被告として昭和六一年九月八日本件本訴を提起するとともに、昭和六一年六月ころから右同日までの間に本件建物の賃借人である牛越富子、芭蕉正廣、天沼通雄、株式会社産経新聞社など不特定多数の第三者に、被告ユニオンの社員である被告風間、同張沢及び反訴原告小川が被告らに占有権原がないのに暴力により本件土地建物から原告を追い出してこれを侵奪したなどの事項を伝え、あるいは公表した。

三争点

(本訴について)

1 原告は被告らとの間に消費貸借契約をし、その弁済のため本件土地建物から賃料を取得する権原を与えたに過ぎないのか、それとも本件土地建物を売却するため管理処分権を与える契約をしたのか。

原告が貸付を受けたとして、それは被告ユニオンからか、それとも被告ジャパンからか、また、その金額は三〇〇万円か、それとも五五〇万円か。

賃借権の設定があったとしてそれは消滅したか。

2 被告風間は原告に対して返還すべき二〇万円を返還していないか、それとも返還したか。

3 被告風間らの庭園の破壊、動産類の処分、別紙物件目録(二)記載の建物の損壊、駐車場の撤去の有無と不法行為の成否。

4 被告風間らは原告に対し暴行脅迫等をしたか。

原告の外泊に伴う損害は右不法行為によるものといえるか、あるいは原告に対する慰謝料はいくらと評価すべきか。

5 家田を含め賃借人らから被告ジャパンが受領した賃料は過当なものか否か。

6 被告風間らが被告東北産商に本件土地に一部を賃貸したことは違法か否か。

(反訴について)

7 原告が被告ジャパンに対してなした前記各仮処分の申請、本訴の提起、本件建物の賃借人らに対する被告らの侵奪事実の伝達もしくは公表が不法行為となるか。

第三争点に対する判断

一〈証拠〉によれば、次の各事実が認められる。

1  原告は、昭和五五年七月と八月に海洋戦没者収揚会(以下「収揚会」という。)に合計六〇〇〇万円を貸与したことから、負債をかかえることになり、昭和六一年三月末当時、次の債務(借入額)を負っていた。

三菱銀行 二〇〇〇万円

都民銀行 二〇〇〇万円

埼玉県信用金庫 一〇〇〇万円

同 二〇〇万円

木原健次郎 八〇〇万円

2  ところで、原告は、収揚会から米国国防省収録の第二次世界大戦フィルム(以下「フィルム」という。)に質権の設定を受け、担保として預かっていたものであるが、収揚会との契約では、貸与した六〇〇〇万円の返済日は昭和五五年九月三〇日となっていたものの、予定されていた国立国会図書館によるフィルムの買い上げが実現しなかったことから、収揚会の返済ができなかったため、原告は質権の実行をし、昭和五九年一一月二九日原告の個人会社坂光商会が代金二五〇〇円でフィルムを競落した。

原告は、右フィルムは少なくとも時価一億円の価値があり、これを売却すれば、すべての債務を返済できると考えていた。もっとも、その後の昭和六一年五月ころ、本件フィルムの一部をある放送局で試写したところ、すでに老朽化しており、すくなくとも試写した部分は売却できる代物ではないことが判明した。

3  都民銀行が昭和五八年一一月二二日に本件土地建物を差押えたため、原告において都民銀行に競売の延期を求めてきたが、昭和六一年四月五日の競売期日の延期は認められず、都民銀行から競売申立ての取り下げをしてもらうしか方法がなくなった。そこで、原告は都民銀行から五〇〇万円を支払えば、取り下げをしてもよいとの内諾を得た。

4  原告は、昭和六一年三月三一日、新聞広告で知った被告ユニオンに電話をしたうえ、中央区八重洲にある同社の事務所を訪れ、管理部部長付であった被告風間に事情を話し、都民銀行による競売の取り下げに必要な資金の貸付を依頼した。

5  右のように原告が競売を止めるために必要とした金額は、原告が借入のために被告ユニオンを訪れたときは五〇〇万円であったが、同年四月二日ころ、被告ユニオンを訪れた際、被告風間から、三〇〇万円は準備したから、残り一〇〇万円は原告の方で作れといわれ、原告は長男の坂本明(以下「明」という。)に一〇〇万円を工面させ、同月三日その旨を被告風間に伝え、同月四日、被告ユニオンの事務所において右一〇〇万円を被告風間に渡した。被告風間は、同日、原告、被告張沢とともに都民銀行に赴き、交渉の末、自らが持参した三〇〇万円と原告が持参した八〇万円を同銀行に支払い、競売の取り下げについて了解を得た。

6  ところで、同月三日ころ原告と被告風間との間に合意された内容は、被告ユニオンが原告に三〇〇万円を期間三か月、年利息三〇パーセント、期間内に返済できないときは更新する、被告ユニオンは原告から賃料債権の譲渡を受け、その弁済にあてることができる。という程度のものであった。

原告は、本件貸付は被告ユニオンから受けたものと了解していたが、その後、書類上は被告ジャパン名義となっていたためこれを黙認し、借入金の弁済にあてるため、本件建物から上がる賃料を昭和六一年五月分から支払い完了まで被告ジャパンに包括的に債権譲渡した。

したがって、原告の被告ジャパンに対する債務は、昭和六一年四月四日借入の元金三〇〇万円及びこれに対する同日から支払済まで年一割五分の割合による利息もしくは損害金(利息制限法の範囲内)の支払義務であったものと言うべきである。

これに対して、被告ジャパンは、賃借人からの賃料として、毎月末日までに次のとおり支払を受けた。なお、被告ジャパンは、昭和六一年六月一三日、原告に別紙物件目録(三)記載の空き店舗を賃料一か月六万七五〇〇円で家田に賃貸したが、右賃料にはその分を含む。

昭和六一年五月、六月

毎月二四万一三〇〇円

昭和六一年七月

三〇万八八〇〇円

昭和六一年八月ないし昭和六二年八月

毎月一九万八八〇〇円

昭和六二年九月ないし昭和六三年六月

毎月一六万六三〇〇円

昭和六三年七月ないし平成二年一二月

毎月九万八八〇〇円

そうだとすると、被告ジャパンの原告に対する貸金債権は昭和六二年七月末には賃借人らから支払を受けた賃料により完済されたものであることが計算上明らかである。

ところで、原告と被告ジャパン間に本件土地建物についての賃貸借契約が成立したというべきか否かは定かでない。しかし、仮に被告ジャパンが賃借権の設定を受けたとしてもそれは貸金担保のためのものであるから、右のように、貸金の返済が完了した時をもって消滅したものというべきである。

なお、被告ジャパンは昭和六二年七月末日現在で七万二五二二円の超過徴収となり、以降原告が本訴において請求している昭和六三年一月二七日までの賃料の超過徴収額の合計は一〇八万一三六四円となることが計算上明らかである。

7  原告は、昭和四九年三月一六日に本件建物を取得してから、同所において妻はつ江、長男夫婦、孫と共に通常の家庭生活を送っていた。

ところが、被告風間は、昭和六一年四月一〇日から同年五月三一日まで、原告はもとより同人の妻に対しても脅迫、強要をした。例えば、被告風間は、原告に対し、同年四月一〇日及び一一日には、息子を本件建物から出すよう要求し、同月一六日には、被告張沢や反訴原告小川らとともに本件建物に赴き、午後七時ころから一一時ころまでの間、原告の借金を被告ユニオンが肩代わりするから息子を保証人にさせるよう要求し、同月二六日にも、息子を保証人にさせるよう要求し、できなければ原告が本件建物から立ち退くよう求め、同月二八日に原告が佐藤某から借りた四〇〇万円の受領を拒否し、「こんな端金で解決できるとおもっているのか、出直してこい。馬鹿野郎。」とどなり、同年五月一五日にも被告張沢らと本件建物に訪れ、はつ江の依頼により外泊先からたまたま帰宅していた原告に、「お前はどこに行っていたんだ。今日から小川をここに泊まらせる。」と述べ、同年五月三一日には、「念書」(乙六)、「別紙念書」(乙七)を書かせた。また、この間、はつ江に対しては、朝、昼、晩に原告からの連絡の有無を被告風間に知らせるよう求めた。

右のように、被告風間は、同年五月一五日には原告がいなくなるのを防ぐため、反訴原告小川をして原告に別紙物件目録(五)記載の応接間を占拠させ、さらに、原告らに対しては「出ていってくれ。」「出ていかないと俺も何をするか分からない。」などと述べ、原告及びその家族を別紙物件目録(二)記載の建物から順次出ざるを得なくし、別居を強いる結果となった。すなわち、家族は原告と同居していると被告風間らの脅迫等の巻き添えになることを恐れ、明の妻は子を連れて山形の実家へ帰り、明も本件建物を出たほか、はつ江も長女のもとに身を寄せ、同年五月三一日には原告も本件建物を出て以来ホテル等を転々とする状態になった。

なお、右被告風間の同年五月三一日の原告宅での行動は約五時間に及んだが、原告が被告風間に無断で同年四月三〇日受付で大石雅則のために本件不動産に被担保債権額三〇〇〇万円の根抵当権設定登記をしたことが判明したことが大きな原因であった。そして、原告が作成した右念書等の記載の内容は、原告がフィルム売却代金八〇〇〇万円から二〇〇〇万円を同年六月四日に被告ジャパンに支払うものとし、これが履行できなかったときは本件建物二階住居全部を明け渡すというものであったが、原告は右約束を結局履行しなかった。

8  被告風間らの占有中に本件建物二階の表玄関の鍵が壊され、勝手口のドア窓ガラスが割られたが、これは被告張沢、反訴原告小川らの行為によるものであった。

9  本件土地には別紙物件目録(七)記載のような樹木等が相当数ある庭園があったが(但し、その評価額等詳細は必ずしも確定しがたい。)、被告風間らが本件土地建物を占有中の昭和六一年六月一日から同年七月一四日までの間に樹木等が持ち去られた。これは被告風間らが処分したものか、あるいは何者かが処分するのを放置したかのいずれかであると認められる。

10  昭和六一年六月一日から同年七月一四日までの間に本件土地の南西の一角にあった原告所有の駐車場が撤去され破壊されたが、これは被告風間らの占有期間中のことであり、同人らの行為であるか又はその管理不十分により生じたものと認められる。

11  また、被告風間らは、原告に無断で、被告ジャパン名義で、昭和六一年四月一五日、本件土地の西南角三三平方メートルを被告東北産商に賃料一か月三三〇〇円で賃貸し、同被告は別紙物件目録(六)記載のプレハブ建物を所有して少なくとも昭和六三年一月二七日までその敷地部分を占有している。

12  前記仮処分の執行により、本件建物は、原告代理人が引渡を受け、無断立ち入り禁止の掲示をしたが、被告風間らはこれを破棄し、ガラスを破って侵入し、さらに、小川名義で立ち入り禁止の張り紙をした。

二これに対し、被告らは、昭和六一年四月三日付け合意書(乙一)を根拠に、原告と被告らとの間には、本件土地建物を売却し残余財産を分割するという契約があった旨主張する。

1  しかしながら、まず、右の主張は、前掲証拠によって認められる次のような客観的事実と符合しない。

(1) 原告は、本件土地建物を乗っ取られると考え、昭和六一年四月二八日四〇〇万円を被告ジャパンに持参し弁済提供をしている。

(2) 本件土地建物を売却処分し、残余財産を六対四で分配するのであれば不要となるはずの本件土地建物の賃貸借契約書(乙三の1、四の1)、家賃受領変更承諾書(乙九ないし一一)、不動産の管理処分を被告ジャパンに委任する旨の委任状(乙一三)がわざわざ作成されている。

(3) 合意書(乙一)によれば、管理処分等の費用は被告ジャパンの負担のはずであるのに、原告に賃料収入の権利を譲渡させ、家田からの敷金、賃料、被告東北産商からの権利金、賃料は全て被告ジャパンにおいて取得している。

(4) 被告風間は、反訴原告小川を本件建物の二階に入居させ、原告の表札を取り外して反訴原告小川のそれを掲げ、第三者が入居していることは売却にとって不利であること承知しながら、反訴原告小川が家族とともに住んでいる体裁をとった。

(5) 被告ジャパンは、昭和六一年六月一三日、本件建物の空き店舗を家田に賃貸し、また、同年四月一五日、本件土地の一部を被告東北産商に賃貸したが、これらはいずれも売買にとって価値を減少させる行為である。

(6) 前記のように、原告及び原告の家族はやむを得ず本件建物を出たが、もし、被告らのいうように本件土地を売却し、残余財産を分配する契約があったのなら売買が成立し、明渡の期日まで原告とその家族は平穏に居住していられたはずである。

(7) 原告が被告風間の要求により作成した昭和六一年五月三一日付け念書(乙六)には同年六月四日に二〇〇〇万円を支払う旨、また、同日付け別紙念書(乙七)には右二〇〇〇万円ができない場合には本件建物の二階全部を明け渡す旨の記載があるが、これらの事実も乙一の記載とは矛盾する。

(8) 明は、本件建物に荷物を取りに行った際、被告風間が何者かに電話をしているのを聞いたが、同人は本件土地建物を競売で落とす旨話していた。

2  また、被告らが、その主張の裏付けとして提出する書証の記載は、前掲証拠によれば、次のとおり、必ずしも原告の意思に基づくものとはいいがたい。

(1) 乙一(合意書)は被告風間が原告をして白紙に署名押印させたものを利用して作成されたものであり、乙三の1(土地賃貸借契約書)、四の1(建物賃貸借契約書)は、もともと賃貸借の合意が仮にあったとしても前記本件借入の趣旨からして担保の趣旨に過ぎないから敷金の授受や賃料の前払いはありえないのに、これらがあったかのごとく記載されており、乙三の2(領収証)、四の2(領収証)は、原告が署名押印したものであるが、金額は勝手に記入されたものである。

(2) 原告は、被告風間から公正証書の作成と担保権設定に必要といわれ、何枚かの委任状に署名押印したが、その一枚に建物の増改築、補修、売却、賃借人の管理、立ち退き交渉など、原告の委任していない事項を記入され、乙一三(委任状)が作成された。

3  なお、二〇万円について、被告風間は、八〇万円を受け取ったのは間違いないとしながら、一〇〇万円を受領したことは否定している。しかし、前掲証拠によれば、原告が被告風間に一〇〇万円を渡したのは都民銀行に行く前であり、同銀行に行って交渉したのち三八〇万円に減額されたものであることが認められるから、二〇万円は被告風間が所持したままとなったものと推認できる。

さらに、貸付金額について、被告風間は、五五〇万円を貸与し、競売取り下げのための費用の残りは原告に渡したと供述するが、右の経過からすれば、原告が競売取り下げのため借入を必要としたのは三〇〇万円程度にすぎなかったのであるから、使途を聞くこともなく二五〇万円もの金額を原告に渡したとは考えにくいところであり、採用できない。

三被告らは、被告風間らが原告らを脅したことがない旨主張し、被告風間、証人川原もこれに沿う供述をする。

しかしながら、明の証言により昭和六一年五月一五日ころ被告風間が原告宅に電話をし、原告の妻はつ江と川原が応答したときの録音テープの反訳であることが明らかな甲五八によれば、被告風間は電話で、川原に対し「この野郎」とか「馬鹿野郎」を連発し、はつ江に対しても「俺はいままで手を出さなかったけど、そういうことをすんなら、うちに挑発してんと同じなんだよ。」「俺、今日はゆるさないぞ。」「逃げるんならいまのうちだ。逃げねえんだったら、俺は、ただではおかねえから。」などと口を極めて脅していることが認められるのであり、これに原告の供述や明の証言を総合すれば、被告風間らが原告らを脅迫し、これを継続しもしくは少なくとも同人らの畏怖状態を利用して前記念書の作成等を強要したことは明らかといわなければならない。

四以上の事実及び前記当事者間に争いがない事実をもとに、原告及び被告らの各責任について検討する。

(本訴)

1 被告ジャパンは被告ユニオンと事実上同一の会社であり、そうでないとしても被告ユニオンと意思を相通じて共同して事業を遂行しているものであり、被告佐藤は被告ユニオンの代表取締役で、被告風間、同張沢は被告ユニオンの従業員であるから、特段の事情のないかぎり被告風間らが事業の執行についてした不法行為については、その使用者としてあるいは取締役として、被害者に対しては共同不法行為を構成し連帯責任を免れない。

2 被告風間は原告から一〇〇万円を預りながら、都民銀行で使用した八〇万円を除く二〇万円を返還していないといわざるを得ないから、これは不法行為にあたり、右行為は被告ユニオンの事業の執行についてなされたものであるから、被告風間、被告ユニオン、被告佐藤は連帯して賠償する義務がある。

3 表玄関の鍵や勝手口の窓ガラスの破壊について原告は鍵を昭和六一年七月一五日に取り替えるなどし、代金合計九万円を要したから(〈証拠〉)、被告ユニオン、同ジャパン、同佐藤は連帯して原告に対し九万円を賠償すべき義務がある。

4 本件土地上の庭園の破壊による被害は確定しがたいが、樹木の種類及びその数に照らして少なくとも二〇〇万円は下らないと認められるところ、被告風間、同ユニオン、同ジャパン、同佐藤は、連帯して原告に対し同額を賠償すべき義務がある。

5 撤去された駐車場の造営には二二万円を要したのであるから(〈証拠〉)、被告ユニオン、同ジャパン、同佐藤は原告に対し連帯して二二万円を賠償すべき義務がある。

6 被告ジャパンは、昭和六一年六月一三日、家田誠之に対し、別紙物件目録(三)記載の店舗を賃料月額六万七五〇〇円で賃貸した外、一号店舗について牛越富子から賃料月額六万三〇〇〇円(昭和六一年三月一日から昭和六六年(平成三年)二月二八日まで)、二号店舗について芭蕉正廣から賃料月額五万円(昭和五九年九月一日から昭和六四年(平成元年)八月三一日まで)、四号店舗について天沼通雄から賃料月額六万五〇〇〇円(昭和六〇年一二月二三日から昭和六三年一二月二二日まで)、五号店舗について株式会社産経新聞社から賃料月額六万円(昭和五八年八月一日から昭和六三年七月三一二八(ママ)をそれぞれ受領していた(〈証拠〉)。このうち原告に対する貸金の弁済に充てられた部分を除くその余の部分については被告らにおいて取得すべきでないことはすでにみたところから明らかであるから、これを留保したまま原告に返還しないことは、原告に対する不法行為にあたるから、被告ユニオン、同ジャパン、同佐藤、同風間は連帯して原告に対し、原告が請求している昭和六三年一月二七日までの過当徴収金(一〇八万一三六四円)及びこれに対する昭和六三年三月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

7 原告は、身の危険を感じ昭和六一年四月二八日から同年五月一二日までの間、さらに、同年五月二八日から同年七月一五日ころまでの間にホテルを泊まり歩かざるを得なかったため、合計一八万八二〇〇円の宿泊代を負担せざるを得なくなり(〈証拠〉)、同額の損害を受けたから、被告ユニオン、同ジャパン、同佐藤は原告に対し連帯して一八万八二〇〇円の損害を賠償すべき義務がある。

8 被告風間らは、(1)乙一を偽造し、(2)原告に三〇〇万円しか貸し付けていないのに五五〇万円の貸付を主張し、(3)担保のための賃貸借契約に過ぎないのに使用権があると強弁し、原告らを脅迫してその家族を本件建物から立ち退かせ、原告家族が分散する結果を招き、(4)原告に乙六、七への署名を強要し、(5)本件土地建物を占拠してからは勝手に庭園(後記のとおり)、駐車場を破壊し、(6)本件建物に第三者のために権利を設定して物件の価値を低下させ、その上で競売に付して所有権を取得して暴利を得ようとしたものであり、そのため原告は老境にありながら家庭崩壊、財産喪失、信用失墜という大きな損失を被ったものである。しかしながら、他方(〈証拠〉)及び弁論の全趣旨によれば、原告の家庭崩壊の原因は単純ではなく、原告自身大きな負債を抱え返済の目処もたたないのにその現実に気付かず、処置に窮し、借金を重ね、家族の信頼を失いなっていたなどの事情も寄与していることは明らかであり、また、被告らとの関係においても、フィルムの売却ははかばかしくなかったのであるから被告らへの債務の弁済には確信がもてる状態ではなかったにもかかわらず、フィルムの売却により被告らへの返済の見込みがあるかのような虚偽を述べるなどの事情もあったこと等本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告の精神的損害に対する慰謝料としては三〇〇万円が相当である。

9 前記のように被告東北産商が本件土地の一部を占有している行為は、被告ユニオン、同ジャパン、同佐藤、同風間、同東北産商らの原告に対する共同不法行為というべきであるから、連帯してその損害を賠償すべき義務がある。

10 なお、別紙物件目録(八)記載の動産について原告は、これらはもともと本件建物内にあった原告所有のものであり、昭和六一年六月一日から同年七月一四日までの間に被告風間が持ち去ったか、又は同人らが占有中に紛失したものであると主張する。そして、証拠の中には原告の主張に沿うものもないではない(〈証拠〉)。

しかし、〈証拠〉によれば、同人は昭和六一年五月末日に本件建物を出てから同年六月末ころまでの間に四回ないし五回にわたり荷物を持ち出し、はつ江が売却した物もあるというのであり、右の動産が被告らの行為によって喪失したものか否か確定しがたいから、この点についての原告の主張は採用できない。

(反訴)

11 以上認定の事実によれば、原告が被告ジャパンに対してなした前記各仮処分の申請、被告らに対してした本訴の提起、本件建物の賃借人らに対する被告らの侵奪事実の伝達、公表は、大筋においては真実に基づく行為ということができるのであるから(多少真実に合致しないところがあったとしても被告らにおいて受忍すべき範囲内のものというべきである。)、原告には格別非難されるべきところはなく、被告らの反訴はいずれも理由のないことが明らかである。

第四結語

以上のとおりであるから、主文のとおり判決する。

(裁判官石垣君雄)

別紙物件目録(一)〜(八)〈省略〉

別紙仮登記目録〈省略〉

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